カーボンニュートラル、政府が目指すもの
今回は、あえて公募対象が限定される委託事業をご紹介します。NEDOによる「先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050」です。
産学連携体が応募条件である上、大学等の登録研究員(再委託含む)については40歳未満という年齢制限が設けられています。
この事業が2050カーボンニュートラルという大目標を掲げていることから、応募課題の技術分野を5つの研究領域に限定していること、2050年頃における経済、省エネ、CO2削減に及ぼす波及効果を示すという難問を含むなどの特長があります。
順番に解説します。
まず年齢制限から。応募資格として、「大学等の登録研究員については2023年3月31日において40歳未満の若手研究員のみを対象とする。」と明記されています。
何故の年齢制限か?公募要領に明記は無いのですが、この事業の関連資料である「想定問答」の筆頭に年齢制限の理由が挙げられていて、NEDOも気にしていることがわかります。
回答は「2050年頃を見据えた(略)探索・創出する先導研究の位置付けであり、2050年の将来を担っていく若手研究者の活躍を期待しています」とされています。
要するに2050年でも現役の研究者として今回提案する計画に責任を負えということのようですが、別の想定質問の中では「40歳未満の研究者が企業との連携を図ることは難しい状況もあるとの推察」されるので、「直属の教授にもご相談」せよとの文言も見られます。
逆に読めば、「すでに企業との関係を有している教授が、本事業を使って若手研究者に産学連携で取り組む課題を与えよ」という読み方も可能かと思います。
もちろん明確な記載はありませんが、博士課程を修了した優秀な人材が、将来展望も描けない不安定な身分を強いられているいわゆる「ポスドク問題」の解決策の一つという面があるのでしょう。
次に技術分野に関する件です。菅前総理による2050カーボンニュートラルという一昨年の宣言以降、政府内では達成するための技術的政策の検討が急速に進められ、各分野での開発目標の具体化が進んでいます。
その流れの中で絞り込まれた技術分野が、当然ながら本事業が選定した5つの研究領域に反映されていると考えられ、30年近い未来に向けた課題でありながらかなり具体的に表現されています。
5つの研究領域とは、(A)次世代省エネエレクトロニクス、(B)環境改善志向次世代センシング、(C)超電導・電導材料・システム 開発、(D)未来構造・機能材料、(E)CO2有効活用とされ、公募要領内の表(別添1)に各領域に該当する課題例が各々8、9件示されています。
驚くのは、それらの課題例が非常に具体的であることです。例えば上記(A)の「課題例8:データセンターの大幅な省電力化に資する革新的デバイス」など、どれもどこかの企業の5年後の開発目標のような内容となっています。
さらに、申請書の中に2050年頃の波及効果を示す項目があり、そこでは想定される 経済的効果(効率向上、コスト削減等)、省エネ効果(原油換算=○○kL/年)、CO2削減効果( 排出削減量=〇〇 ton CO2/年)を概算して記述しなければなりません。
他の補助金などで何度か2030年の現有削減効果や、CO2削減効果を計算した経験がありますが、2050年と言われると不確定要素が大き過ぎて論理的に記述することはなかなか難しいのではないかと思います。
以上の通り、この委託事業への応募はかなり限定されそうですが、2050カーボンニュートラルに向けた政府の技術開発目標がかなり具体化されていて、その課題解決に向けた予算化が進んでいることを知っていただきたくあえてご紹介しました。
新年度が始まった時期、もし貴社が将来に向けて新たな技術開発テーマを検討されているのであれば、本事業の公募要領の別添1が一つの参考になるかもしれません。
季節の俳句
一片の又加わりし花筏 (上野 章子)
なぜか若いころから「花筏」ということばと風情に惹かれていたのですが、この句でその理由が分かったような気がします。要は世の憂さを忘れて水上の花びらに見入っている時間に惹かれるようです。
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