開発経費の年度間配分が柔軟な産学連携支援事業 - 研究開発系補助金のスペシャリスト アライブ ビジネス

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開発経費の年度間配分が柔軟な産学連携支援事業

2023/03/06

今回は、昨年に引き続き、中小企業庁による産学連携の研究開発支援事業、「成長型中小企業等研究開発支援事業」(以下、Go-Tech事業)の公募内容のご案内です。

昨年お伝えした通り、この事業そのものは昨年度から始まりましたが、その内容は長く続いたサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事)を概ね踏襲しています。

一方Go-Tech事業になって大きく変わった点として、ファンド等の出資が条件とされた「出資獲得枠」が追加されたこともお伝えしました。サポインをそのまま引き継いだ「一般枠」と新設された「出資獲得枠」の昨年の採択実績はどうだったのでしょう。

第1回および第2回の公募結果が各地の経済産業局から公開されているので見ていきましょう。

第1回公募 応募件数 採択件数(採択率)
一般枠 220 108(49%)
出資獲得枠 3 2(67%)
 

第2回公募 応募件数 採択件数(採択率)
一般枠 98 29(30%)
出資獲得枠 2 0(-)

見た通り、「出資獲得枠」の人気はさっぱりでした。前回の解説では、ファンドの出資額の大きさに比例して補助金額が変わること、ファンドから出資宣誓書が応募条件であるなど、縛りが多いことを説明しましたが、これらの条件も敬遠された要因のひとつかもしれません。今後の成り行きを見守りましょう。

さて、Go-Tech事業は14分野の戦略的基盤技術及びサービスの高度化が課題なので、技術的な面での優位性がしっかりアピールできないと採択されるのは難しいのですが、もう一つ、予算計画が複雑という難点があります。

ファンドからの出資がない一般枠であっても、民間企業以外の大学や公共機関などの非営利法人が「A機関」「B機関」などと仕分けされ、これらの機関と民間企業のいずれが事業管理機関になるかによって各研究実施機関の補助率が変わります。

さらに中小企業が受け取る補助金額が全体の2/3以上という条件もあるため、予算計画が大変複雑になるのです。従って、申請書作成に当たっては技術面の表現を充実させることが一番ではあるものの、産学連携に事業管理機関を加えた連携体間の役割分担とお金の流れを早い時期に明確にしておくことが重要です。

以上のように、Go-Tech事業は応募に当たって検討すべきことが多い補助金ですが、事業費の使い方に限れば大変使い勝手が良い点もあります。

研究開発系の支援事業には複数年度にわたって補助金が提供されるものが多いのですが、そのほとんどが、例えば2,000万円×3年などと、各年度の予算を均等割りしており、実はこのような配分は使いにくいのです。

理由は、初年度の交付決定が夏ごろとなる場合が多いことから、事業期間は12か月ではなく8か月程度となりがちです。しかも初年度は必要な開発機やシステムについて仕様検討や設計に要する時間が必要であるため、発注時期がさらに遅れて、上の例では2,000万円の予算を消費するための計画が難しくなります。

かといって使えなかった予算を翌年に持ち越すことは許されないので、1年目の予算計画に苦しめられたあげく、2年目にしわ寄せされた開発費を2,000万円以内に無理やり圧縮しなければない状況が発生します。

一方Go-Tech事業は3年間の事業であれば「年度の最高額4500万円、合計は9750万円」というルールなので、1、2、3年目の各予算をそれぞれ1,500万円、4,500万円、3,750万円と経費発生に合わせて配分する実際の消費額に近い予算計画が可能なのです。

というわけで長短特徴のあるGo-Tech事業ですが、一般枠であっても産学連携の開発への1億円に迫る補助金総額は魅力ですし、サポイン事業からの長い歴史で事業管理機関の環境も整っているので、新技術の開発で課題を抱えているものづくり企業には見逃せない補助金かと思います。

本記事は2023/03/06時点での情報です。状況は刻々と変化しますので、必ずその時点での最新情報をご確認ください。

季節の俳句

一片を解き沈丁の香となりぬ (稲畑 汀子)

恥ずかしながら「一片を解き」を「いっぺんをとき」と読んでいたのですが、今回調べてみて「ひとひらをほどき」と読むそうで、なるほどやまとことばは中七の字余りを緩やかに吸収して良いものであると感心しました。恥ずかしついでに、同じ季語の拙句をご紹介します。

 通りすぐ香や沈丁に違いなし