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「ジャングリア沖縄」~沖縄の巨大地域活性化プロジェクトを読む

2025/06/12

ジャングリア沖縄 地域活性化プロジェクトコンサルタントの南郷です。今回はいつもと視点を変えて、私が今一番関心を寄せているプロジェクトを取り上げます。

それは、2025年の日本で最も注目すべきプロジェクトのひとつ、「JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)」による地域活性化プロジェクトです。

このプロジェクトを主導しているのは、USJ再建の立役者、森岡毅氏。総事業費700億円を投じて、広大な自然を舞台に創り上げた全く新しいコンセプトのテーマパークを主軸に沖縄北部の地域活性化を目指すものです。

本稿では、7月25日の開業を前に筆者の注目ポイントをご紹介します。皆さんの事業のヒントが何か見つかるかもしれません。

1. ジャングリア沖縄の魅力 ~興奮、贅沢、解放感~

ジャングリア沖縄には、コンセプトである「Power Vacance!!」を体現する、合計22のアトラクションが準備されています。

少しだけご紹介しましょう。
  • 興奮(スリル):
    最大の目玉は「ダイナソー・サファリ」。最先端のアニマトロニクス技術を駆使した実物大のT-REXが、単なる映像ではなく「ガチで追ってくる」スリルを味わえます。
  • ジャングリア沖縄の多様なアトラクション贅沢(ラグジュアリー):
    併設される「スパ・ジャングリア」のインフィニティスパは、その大きさで2025年1月にギネス世界記録に認定。壮大な自然との一体化が楽しめます。また、フードメニューの約6割に県産食材を使用するなど、沖縄の食文化を堪能できる「食の贅沢」にもこだわっています。
  • 解放感(リフレッシュ):
    パークの象徴である高さ14.5mの「ジャングリアツリー」がゲストを迎えます。また、気球に乗ってやんばるの森と東シナ海の絶景を一望でき、沖縄の大自然が生み出す圧倒的な解放感が満喫できます。
これらのアトラクションは、大人だけでなく、低年齢の子供たちも楽しめるものが用意されており、幅広い年齢層に配慮されています。

2. ジャングリア沖縄の全容 ~沖縄北部に誕生する巨大リゾートパーク~

次に、この魅力的なパークの全体計画です。
  • 運営会社:株式会社ジャパンエンターテイメント
  • 事業主導: 株式会社刀
  • 立地:沖縄県名護市・今帰仁村(旧オリオン嵐山ゴルフ倶楽部跡地)
  • 面積:約60ha(東京ドーム約13個分)
  • 目標年間入場者数:300万~400万人
  • 入場料金(1日):インバウンド需要を重視
    • 国内在住者:大人6,930円、子供4,950円
    • 訪日外国人:大人8,800円、子供5,940円
  • 計画雇用人数: 約1,500人
  • 経済波及効果(試算): 開業から15年間で約6兆8,080億円
特徴的なのは、国内外で異なる入場料金です。これはインバウンド需要を重視し、収益を最大化する戦略の一環と見られます。また、運営主体は、この沖縄での事業モデルを、将来的にはアジア各国のリゾート地に水平展開する「プロトタイプ(試作機)」としての構想も明かしています。

3. 資金調達の裏側 ~700億円プロジェクトの内幕とリスク~

この壮大な計画を支える総事業費約700億円は、エクイティ(資本)とデット(借入)をほぼ半分ずつで構成する巧みなスキームで調達されています。

  • エクイティ(資本):約350億円(資金調達額、ローン額からの予測値)
    「株式会社刀」を筆頭株主とし、オリオンビールなど沖縄県内企業群が全体の約7割を占め、地域主体という理念を体現。さらにJTBや近鉄グループHDなど本土の関連企業も参加。この資本形成では、大和証券グループ本社による刀への140億円の出資が大きな信用力となりました。
  • デット(借入):366億円
    メガバンクがコロナ禍で融資を見送る中、商工中金と地元の琉球銀行が主幹事となり、全国を行脚。最終的に全国13の金融機関・公庫による協調融資が組成されました。
700億円の資金調達しかし、この巨大プロジェクトには当然リスクも伴います。最大の不確定要素は、目標とする年間300万~400万人という集客を実現できるか否かです。

単純計算で1日あたり約1万人の来場者が必要となりますが、これがいかにチャレンジングな数字であるかは、他のデータと比較するとより鮮明になります。

例えば、沖縄県が発表した2024年の1日あたり平均入域観光客数は約2万6千人。つまり、沖縄を訪れる観光客の3人に1人以上がジャングリアにも足を運ぶ計算となり、極めて高い誘引力が求められます。

また、国内トップクラスであるディズニーリゾート(1日平均約7.5万人)やUSJ(同約4.3万人)と比較しても、その目標は決して低いものではないことが分かります。
万が一、この計画を大幅に下回った場合、そのリスクは誰が負担するのでしょうか。

まず、366億円を融資した金融機関団は、返済遅延や貸し倒れという直接的なリスクに直面します。そして、資本金という形でリスクマネーを投じた刀やオリオンビール、JTBといった企業群は、投資そのものが回収困難になるという損失を被ることになります。

つまり、このプロジェクトの成功は、まさにこれらのステークホルダー全員の期待を背負っているのです。

もちろん筆者は、本プロジェクトの成功を祈っております(ただし、残念ながら本プロジェクトから一銭も宣伝費はいただいておりません)。

4. 補助金の役割 ~国費2,900万円の意味~

100%民間投資という理念を掲げる一方で、このプロジェクトでは公的支援も活用されています。

  • 補助金名:内閣府 沖縄振興特定事業推進費補助金
  • 活用額:約2,900万円
この補助金の主な使途は、ジャングリアで働く人材を育成するための「観光人材育成施設」の整備など。事業の根幹であるパーク本体への直接的な国費投入は避けつつも、産業基盤の強化という側面では公的支援を活用するという、巧みな公民連携の形が見て取れます。

これだけのスケールとこだわり。開業が、今から楽しみです。

本記事は2025/06/12時点での情報です。状況は刻々と変化しますので、必ずその時点での最新情報をご確認ください。

コンサルタントのひとりごと

ジャングリア事業でも活用されたSLL(サステナビリティ・リンク・ローン)。社会貢献で金利が変わる仕組みですが、どこを見るべきでしょう?

注目すべきはKPI(目標)の中身です。地域貢献に見える目標が、実は「事業がうまくいけば達成できる」成功連動型になっていることも。借り手はESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮していることをアピールでき、貸し手はリスクを減らせる巧みな仕組みです。

そのKPIが単なる事業目標の言い換えか、野心的な挑戦か。企業の「本気度」がそこに隠されています。