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事業承継・M&A補助金を読む~制度の構造とその活用

2025/10/30

事業承継・M&A補助金 13次公募コンサルタントの南郷です。「事業承継・M&A補助金 13次公募」の公募要領が公開されました。

M&Aや事業承継を支援する仕組みとして注目される本事業。実は、実際の現場では「仕組み」と「時間」がかみ合っていません。

今回は、1. 制度の構造、2. 現場とのズレ、3. 実際に生かしやすい枠の3つの視点から整理します。

1.事業承継・M&A補助金の構造

この補助金は、M&Aの前後および承継後の成長投資を支援する目的で設計されています。
内容は、実質的に6種類に分かれます。

類型または内容主な対象主な対象経費上限額
1. 事業承継促進枠親族内、従業員承継の促進親族・役員・従業員等の後継者承継を契機とした
設備・IT・
人材投資
800~1,000万円
2. 専門家活用枠買い手支援類型(l型)経営資源を引き継ぐ買い手企業M&A調査・
契約助言・
士業支援等
600万円
3. 専門家活用枠売り手支援類型(ll型)事業・株式を譲渡する売り手仲介・FA・士業報酬600万円
4. 専門家活用枠100億企業特例売上100億円を目指す買い手M&A専門家費用・
保証保険料等
2,000万円
5. PMI推進枠PMI専門家活用類型/事業統合投資類型買収後の中小企業PMI支援・
統合投資・
システム導入
150~1,000万円
6. 廃業・再チャレンジ枠再挑戦への支援廃業や再出発を行う
中小企業
廃業関連費用
(登記・原状回復等)
150万円

上記の種類だけ見ると、「承継前(1)・M&A(2~4)・承継後(5)・撤退(6)」と一通りの流れを網羅しています。しかし、制度の運用は行政プロセスに依るため、現場のスピード感とはかみ合いにくいのが実態です。

2.現場とのズレ

中小企業のM&Aは、動き出してから決着までが早い。話がまとまれば、すぐに調査や契約が始まります。一方で、補助金は、申請から採択・交付決定までに数か月を要し、交付が決まる前に支払った費用は補助対象になりません。

つまり、会社の引継ぎが終わった頃に補助金が動き出す。

この時間のズレが大きな壁。結果として「専門家活用枠」は実務のスピードに合わず、補助金の交付決定前に調査や契約が進んでしまいます。このため、補助対象の費目であるのに補助金が受領できないのです。

3.実際に生かしやすい枠は

「事業承継促進枠」が活用しやすいこういったことを踏まえると、6枠のうち、現場で特に生かしやすいのは「事業承継促進枠」。設備投資やIT導入、人材育成などを広く対象としており、「世代交代を機に会社を再構築する」という目的に合います。

また、「PMI推進枠」も、買収後の小規模な体制整備や経理・人事の統合などで使える可能性があります。ただし、上限額(150~1,000万円)では、本格的な統合支援を外部に委ねるには限界があります。

類型現場での使いやすさコメント
1. 事業承継促進枠設備・IT・人材など幅広く対象。承継期の再投資に最適。
2.および3.専門家活用枠
(買い手支援および売り手支援)
×タイミングが合わず、前払い経費は申請できない。
4. 専門家活用枠(100億企業特例)×大企業的規模を前提。一般的な中小企業の案件では適用難。
5. PMI推進枠小規模事業者の統合支援向き。上限額に限界。
6. 廃業・再チャレンジ枠撤退時の費用補助としては一定の意義あり。


まとめ

この補助金は、日本社会が直面する「後継者不在」「経営者の高齢化」「地域産業の空洞化」という課題に応える政策的仕組みです。

国全体で中小企業の事業承継を促し、地域経済の持続性を守るという理念は明確です。

しかし、残念ながら、実際のM&Aのスピードや流れに制度が全く追いついていません。現場感覚で見れば、「1. 事業承継促進枠」「5. PMI推進枠」が現実的に活用可能な枠といえます。

補助金を「資金をもらう制度」として捉えるより、「外部の力をどこまで使い、自力でどこから整えるか」を考えるきっかけにする。
それが、この制度とのちょうどいい距離感でしょう。

本記事は2025/10/30時点での情報です。状況は刻々と変化しますので、必ずその時点での最新情報をご確認ください。

コンサルタントのひとりごと

初の女性首相が誕生しました。実力のほどはこれからとしても、「何かを動かしてくれそうだ」という期待が確かに漂っています。閉塞した政治に少しだけ風が通った気がしますね。